column コラム

人事労政部 K氏のアクティブリスニング

「『そうはおっしゃいますが・・・』『それ、おかしいでしょう?』という否定から入るのを試しに止めてみたら、交渉が嘘のように上手くいったんですよ。」大手メーカーの人事労政課長K氏が目を輝かせながら最近のエピソードを語ってくれた。

K氏のお話によれば、来期の昇格人数の調整のために支店を7つほどまわった時に、思うところがあって冒頭のように、交渉のアプローチ方法を変え、アクティブ・リスニング(積極的傾聴)つまり相手が答えを見つけるよう、聞き手にまわり「良い質問」をするスタイルに変えたら、劇的な効果が得られたとのこと。

その会社は歴史も古く、いわゆる一流企業なので社員も旧帝大卒や有名私大出身の勉強がよくできた人が多いらしい。また、政府関連、自治体向けの仕事も多く、受注仕事として間違いが許されないものを多く手がけていて保守的な社風。いきおい社内での会議では重箱をつついて、石橋をたたき割り、相手のアイディアに穴がないか、落ち度は無いかを見つけたり上げ足をとったりを上手くやる人が「できる人」となりがちだそうである。これが討議の活性化を妨げている病魔だと、K氏は感じたそうだ。

今まで、当然支社側はメンツをかけて推薦した自支社内の人員の昇格を強く要求する。支店内で確保したい昇格者数と本社が予算上理論値で出た数とを、文字通り闘って数合わせに時間をかけ、双方が多少の不満を抱きながら決着するのが恒例だったそうだ。

そこで、まず支店の要望を聞いてから「おっしゃることはごもっともですねえ」と切り出して、一度も相手の言い分に対し否定しないで会議を進めたら、戦闘モードだった相手も拍子ぬけした。「確かに、仰るように、この4名は同期ですから今回同時期に昇格させないと、モチベーションがおちますよねえ。ごもっともです」と相手の主張をまず認め、「今回はそうするとして、こちらは現場ではないので良くはわからないのですが、仕事の出来も同じくらいなんですかねえ・・・」と、断定せずに言葉を濁し、結論めいたことは言わない。「このまま、次の昇格でも、同じことが起きると、どうなりますかねえ?・・・・」と悩んだ顔をしながら相手の目をじっと見詰めたそうだ。

相手は一度も本社側から主張を否定されないので機嫌が良くなっていて、前向きに考え出し「それもそうですね。うーん全員昇格させると、それはそれで問題ですかねえ・・・」と、言いつつ目の動きがくりくりして、前向きの検討モードになった。そして出席した支店側から内輪で議論しだし、最後にはK氏の目算に近い数値に、自ら歩み寄ってくれたそうだ。ほかの支社でもほぼ同じ反応と結末だったそうである。試しに1支社だけ、開始してすぐにはちょっと対決モードの口調にしたら、案の定態度が硬化し、いつものやりとりになりかけた。「やはりそなるか」と、途中からアクティブ・リスニングのモードに変えたら、徐々に相手も態度が変化したそうである。

最近、ある講座でSPINという営業マンが必要な拝聴のテクニックを教えている。
S(Situation)5W1Hで顧客の状況を聞く
P(Problem Question) 問題質問 不満、問題
I(Implication)示唆質問 放置するとどうなるか?
N(Net-payoff)解決質問 問題が解決できるとどんな良いことがあるか

営業は話すことが仕事だと思われがちだが、良い営業ほど「聞き上手」である。

答えを言わずに良い質問をすることで「アクティブ・リスニング」、つまり相手から答えを引き出す。このテクニックの応用範囲は広そうです。