column コラム

バズワードとしてのビッグデータ

ビッグデータがこれからのキーワードになるという議論が喧しい。その言葉の定義すらも使っている発言者やWEBサイトによってまちまちなのは、バズワードたる所以である。この手のバズワードの演出では右に出る物はいないIBMが今年10月に行った年次会議「IBM Information On Demand 2011」で大きく取り上げたことで話題に拍車がかかった。また、米国のガートナーも「2012年の戦略的テクノロジートップ10」として、10の重要技術の1つとして挙げている。

その定義に関していくつか意見の共通項をまとめれば、
①大量のデータを扱うこと。大量とはどの程度か?という疑問があるが、数100TB とも、ペタバイト(1,024TB)とも言われている。IBMの会議において紹介された成功事例では、デンマークの風力発電システム分野におけるグローバルカンパニーであるVestas Wind Systemsが2.8ペタバイトのデータを解析して風力タービンの最適設置場所を探り当てているそうだ。
②データの多様性に対応すること。これまでのリレーショナル・データベースに収まる構造化されたデータだけでなく、イメージやビデオなど非構造データをも扱う
③データをリアルタイムで扱う

ということだ。

ちなみにマッキンゼーの調査部門であるマッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)が作成した"Big Data: The next frontier for innovation, competition, and productivity"という調査報告書のエグゼクティブサマリーでの定義では「BigDataの意味は業種ごとに異なる。使用するソフトウエアが一般的に使用可能か、またはどの程度のデータベースのサイズが一般的かなどによっても異なる。敢えて言えば、多くのセクターにとって現在では数十テラバイトから数ペタバイトの間だろう」とされている。

定義はさておき、MGIのレポートによれば、ビッグデータを解析することで大きな経済価値の向上が見込めると予測している。例えば
  •  USヘルスケア :$300Billion/year  0.7 %弱の年間の効率向上
  •  製造セクター:最大50%の商品開発コストや組み立てコストの削減。最大7%の運転資本の削減
  • 全世界の個人位置情報データ :$100Billion 、加えてサービス提供業者の売上と、最終利用者へ$700Billion の付加価値
  •  US小売り業:60%の利益率の向上が可能。0.5~1%の年間生産性向上 
などが挙げられていて、数値はかなり広範囲に渡る経済効果を合算している。
 
また、最近のマッキンゼー・クオータリーでは、匿名で大手小売業でのビッグデータ活用によって対競合戦略を革新する事例、大手メーカーの事例があった。実験的な側面もあるだろうが、いくつかのマーケティング先進企業は確実に歩を進めているようだ。

一般企業ではペタバイトのデータを解析し戦略に応用することなど、遠い未来の話と思われるかもしれない。しかしながらスマートフォーンやタブレットPCの凄まじいまでの普及により、その位置情報やソーシャル・メディアに書き込まれた情報には、多くの企業にとって極めて価値のあるマーケティング情報が詰まっていることは、誰しも否定できないだろう。

現実にソフトバンクでは、孫社長のツイッターを始め、様々なソーシャル・メディア上のデータを解析して業務改善に役立てている。私の友人は、都内のある地点で携帯の音声品質が悪いことに腹を立ててツイートしたところ、ソフトバンクから数分後に「それはどこの場所ですか?改善したいので」とレスが来て驚いたそうだ。

市場調査の新しい流れとして、ソーシャル・メディア上の生活者のVOC(Voice Of Customer)をリアルタイムで収拾し、トレンド分析をすることで自社のブランドや新製品、新テレビコマーシャルやキャンペーンに対しての評価や生活者の嗜好変化を判断するための、ソーシャル・リスニングといわれる手法が導入され始めている。これもビッグデータの解析に繋がっていく。これまでの問題はデータ容量が大きすぎ、かつ、訳に立たないノイズが混在していることである。しかし意味のある情報の解析をするデータマイニングのツールや、使いこなそうとするユーザーが出てきた。お膳立ては少しづつ整ってきている。

だから、問題はやるかやらないか?ではなくて、「いつから」「どうやって」やるか。

私の解答としては、「今から」

「どうやって」との答えは、まず本当のビッグデータではなく、バッチ処理の数テラレベルの非構造データを使って、顧客の声を解析し、「聞いてみること」から始めるべきだろう。その際に必須の要件は、マーケティング・マインドを持ったアナリストの育成である。分析の出来るマーケターでも良いけど。 但しソーシャル・メディアへの理解に加え、生活者の購買行動や心理の理解力が重要である。加えてIT技術ノウハウも必要であることを鑑みると、これらスペシャリストのチーム編成が必要だろう。

そのような専門部隊の育成に手間暇をかけられないので、丸投げで外部委託を考える企業も多いかと思う。しかし、このナレッジとスキルは今後企業の雌雄を決するための知的財産となる可能性が高い。是非ともその統合管理機能は自社で保持すべきと思う。