column コラム

iPADの愉しみとマーケティング的考察

ここ約1ヶ月ほどiPADを使ってみて考え、感じたことを書きます。

  • 5月下旬の発売初日には銀座で数百名の方が並び、中には徹夜組も出ましたが、私は次の日に「もしかしたら」と銀座に行って、5人分ほど並んだだけで買えました。あれだけの取材が殺到し、数日前のiPhone4でもそれが再現されたのですから、PR効果は絶大。アップルは流通対応を自社主要店重視にシフトしているようで、自社店舗には在庫を積み増した様子。一般小売店には潤沢に商品が回らなかったようです。

  • 売上、利益、株価の上昇とともに、強い商品を持ったメーカー主導のブランド戦略が功を奏している印象。最近アップルの奢りが周辺から非難され始めていますが、あまりに吸引力のある商品なので、そこで儲けたい企業はそのエコスシテムの仲間入りを余儀なくされているのでしょう。

  • 今のところ私の周辺で既に購入したユーザーの主なプロフィールは、
  • 筋金入りのアップル信者
  • 中年のオヤジで、この手のガジェット大好き
  • 目が悪くてiPhoneのフォントの小ささに辟易している
  • ちょっと小金がある
人のどれか。またはこの複合症状者。いわゆるマーケティングのセグメンテーションでいうところのイノベーターです。(私はマーケターとして、そのプロ意識から買いました・・・少し嘘です)

私の息子はデジタル・ネイティブなので、遊びに来ると楽しそうにしばらくいじってはいますが、「買いたいか?」と聞くと「いらない」との答え。色々なことに使えるけれど何に使うかがはっきりしない物に、これだけの金額は支払えないのでしょう。ここは「電話とメール」というキラーアプリへのニーズがはっきりしていたiPhoneと異なる状況です。従ってこの商品が初期大量採用者セグメントに浸透するまでには価格の下落と明確なReason to Buyの提示が必要でしょう。
  • アップルのTVCMは伝統的に、その商品のポジショニング(何故良いのか?何故買うべきか?)をはっきり表現します。今回は「薄く、美しい。何十万のアプリケーションがあって、色々なことが出来る。そして使いやすい。」 これはジョブスが常に主張している「アップルはいけてる技術を簡単に を実現する会社」というコンセプトそのもの。そして、この商品は「革命」を起こすと言っています。でもまだiPADでしか成しえないことは明確ではない。

  • iPAD は何を変えるのでしょうか?これがPCの代替となるか?と聞かれたら今のところ私の答えは「NOT YET !」です。仕事の資料作成やプレゼンにこのままは使えない。それはちょうど、私がiPhoneをしばらくドコモの携帯と一緒に持ち歩いていたけれどお財布機能が無いために1台に集約できず、今はかさばるの息子にあげてしまった事態と重なって映るからです。私にとってお財布機能や新幹線のE-ticket機能はキラーアプリで、これは手放せない。
  • 次の一手は、マイクロソフトが得意技としている「顧客の心理コストを下げる」ことでしょう。つまり「通常のPCでしかこの業務は出来ない」と思っているこ とをさっさと「それ、簡単にできますよ」として欲しい。今すぐにでも出来るのかもしれませんが、それなら、「出来ます」と教えて欲しい。たとえばofficeの資料を文字ズレなど無しにちゃんと完全互換できて欲しい。

  • 使ってみて、まだ「何に使う物か?」という問いには答えられないけれど、デジタルフォトフレームとしての素晴らしさや、何となくWEBをブラウズする使用感はまさに「快感」としか言いようがない。機械で本を読むという、「それは無理だろう」と思っていたことが裏切られた新鮮な快感。これは凄いことだ。

  • まあ、iPADは未だにメインPCとiTunesが無いと動かないということは、デジタル・ハブの中心ではないというアップルの戦略なのでしょうから、常に「メインマシンありき、で副次的にモバイルで使うデバイス」なのでしょう。iPOD,iPhone,iPodの周辺機器を厚く固めていって、最後にそのハロー効果でメインPCを売ろうということなのでしょう。

  • しかしながら私は、iPADがデジタル・ハブにならない限り、MSに勝てないのではないかと思います。アラン・ケイが創ったダイナブックの思想に今現在一番近いコンピューターがiPADだと思うからです。OS4が導入されればマルチタスクが出来ますが、更なる進化を望んで待ちます。