普段はクライアントの名前は明かさないが、ワークショップの内容が興味深かったことと、JAXAさんにご承諾いただいたので、先週のワークショップ内容を書く。

打ち合わせ時にJAXAの担当の方から相談されたことは「業務プロセスの可視化を図ることによるメリット(優先順位、情報共有、遅延やミスの早期発見)を明確にし、実行、改善する為の方法、考え方を学ぶこと。そして実際に改善された実例を学びたい」ということ。討議の結果、参加者の方々に自分が体験した失敗事例を宿題としてレポートしていただき、チームで典型的な失敗事例を選択した後に、その失敗業務プロセスの分析をしていただくことにした。

これが参加者への宿題。

①    失敗事例の詳細のまとめ
ご自身のこれまでの業務を振り返り、業務プロセスでの失敗経験(必ずしも結果として失敗に終わった事例である必要はなく、リカバリーした事例でも可)で周囲への影響が大きかった1事例に対し、5W1Hでまとめて来てください。(いつ-when、どこで-where、誰が-who、何を-what、なぜ-why、結局どう処理・対応したか ーhow)

② 失敗事例の振り返り
①の問題のあるプロセスについて、もしやり直すことが出来たらどう対応しますか?また同様の失敗を未然に防ぐために、本来すべきことについて記載ください

このワークショップを実行するにあたって考慮したことは、「失敗学」と、「BPM ビジネス・プロセス・マネージメント」という考え方だ。

「失敗学」とは耳慣れない言葉かもしれないが、この学問の権威で工学博士の畑村洋太郎氏は建築物や機械設計における失敗の原因を10に分類している。

  1. 未知
  2. 無知
  3. 不注意
  4. 手順の不遵守
  5. 誤判断
  6. 調査・検討の不足
  7. 制約条件の変化
  8. 企画不良
  9. 価値観不良
  10. 組織運営不良

無知や不注意、手順の不遵守から引き起こされる失敗に対しては単純に対策を考えがちであるが、その背後にある組織文化的な側面まで踏み込んで真因を究明しないと再発するという。また、失敗には「未知」を解明するために実験し、その失敗から新たな学びと改良に繋げられる「良い失敗」と、何も学ぶことの無い「悪い失敗」がある。畑村博士は、社会的に損害の大きな失敗が繰り替えし起きないように、失敗の知識共有化のフレームワークを提言している。特に科学技術振興機構(JST)は畑村博士を中心として、失敗からの学びを普及させるために提言を行っている。http://www.jst.go.jp/pr/info/info161/index.html

そして「災害防止の祖父」と呼ばれるハインリッヒの法則 (Heinrich’s law)によると労働災害における経験則として、ヒヤリ・ハットした事故の未然体験を自覚して致命的な失敗を防ぐ手立てが重要であるという。ハインリッヒの研究成果によれば「労働災害における発生確率は 1:29:300である。まるでピラミッド構造のように、頂点に見える1件の大きな事故・災害は、29件の軽微な事故・災害が既に起きていて、300件のヒヤリ・ハットが発生している。災害を防げば傷害はなくせる。そして不安全行動と不安全状態をなくせば、災害も傷害もなくせるということだ。1931年に初版が発行された彼の著作「Industrial Accident Prevention – A Scientific Approach」は、災害防止のバイブルとして、NASAを初め数多くの著作物等に引用されているそうだ。小さな失敗の知識共有化と警告が大きな失敗の防止に繋がる。

ワークショップの午前中にチームで討議して「失敗」の5W1Hを抽出した。午後には各チーム毎に「BPM」による失敗プロセスの見える化と深堀を行った。

BPMとは、現行の業務(何らかの価値を生み出す仕事)の活動の手順を社内外を問わず、始点から終点までを含めて抽出し、単純化して表示し、現状の見える化をする。そのプロセスのムダ・ムラを合理化し、業務プロセスをITで見える化して継続的に改善していく管理手法を言う。BPR(ビジネス・プロセス・リデザイン)に継続改良という意味合いを持たせた、進化型である。業務プロセスは業務フローと同義だが、フローは図式化されたものという意味が強く、直感的に問題が把握しやすい。業務プロセスの事例は、製品企画プロセス、生産計画プロセス、生産プロセス、販売業務プロセス、購買業務プロセス、返品業務プロセス、決済業務プロセス など多岐に渡る。

今回のワークショップではIT化が主題ではないので、「関係部署・関係者」を縦軸に、作業ステップの実施タイミングを横軸に取る(月締め、四半期、決算日など)。そこに「作業」、「入出力情報」、「情報システム」、「判断のポイント」、「関係者の感想や何故そう判断したかのコメント」「業務の起動点と収束点」「フローを表す矢印→」などを、数枚貼り合わせた模造紙、大判ポストイット、マジックで描いたフローで表現する。その際フローの問題や「コメント」を重視する。主体の主なアクションごと(販売業務フローでは「受注」「納品」「請求」「回収」など)に区切りを入れる。この区切りの「粒度」が重要で、大きすぎると重要な判断ミスの背景が分からなくなるし、小さすぎると些末な時事再現に陥って大局が見えにくくなる。

この見える化のおかげで、どの業務フロー上で事実の誤認や判断ミスが引き起こされた経緯がチーム内で明確に理解された。そして何故それが起きたか?と失敗した本人、チームメンバー間のやりとりを重ねると、そのミスの背景にある組織文化的な、根深い理由のあぶり出しもできた。午前中に作成した5W1Hと比較すると、その組織背景の理解という点が深くなり、今後の対策の具体性が増した。

クライアントの事情はこれ以上述べることが出来ない。しかしながらそこでの学びは、私が最近ある民間の大手素材メーカーで、技術営業のクレーム処理に対するワークショップを行った際に感じたものと近似であった。

一方JAXA固有の課題もあった。「JAXAは宇宙航空分野の研究開発を推進し、英知を深め、安全で豊かな社会の実現に貢献します」と経営理念では謳っている。民間企業であれば自明の、組織の存在意義に対する意識=利益を上げ株主価値を上げるといった意識は感じにくい状況にある。最近文科省から予算が削られがちなので、自社技術で民間向けプロジェクトを立ち上げて稼ごうという動きはあるが、組織全体には利益追求という概念が薄い。ステークホルダーが複雑で、政権与党に宇宙開発への定見が無いと方針が猫の目のように変わり、予算が変わる。また「はやぶさ」のような快挙があれば、マスコミや国民は瞬きする間に語調を変えて「もっと夢を見よう」と言
い出す。誰を向いて仕事をすべきか見定めるのが困難なだけに、最後は「研究者として、自分が楽しいことをしたい」となるかもしれない。このような傾向は民間企業の研究者に無いとは言えないけれど。

結局この日に私が感じたJAXAへの想いは「宇宙科学の進歩に資する 「失敗」を恐れていてはいけない。信じたことを貫いて欲しい」「でも、もうちょっと民間の手法や思想も学んだ方が効果効率が向上して、講師として、一国民としても嬉しい」 ということである。