column コラム

VALUE(価値観、行動規範)の重要性

昨日、某メーカー向けに今期7回行った「戦略課題特定ワークショップ」の最終回がありました。その企業は著名な創業者が引退されてかなりの年月が経っているにもかかわらず、そのカリスマ性は残っていて参加されたマネージャーの皆さんはそのDNAを色濃く受け継いでいます。

私は多くの一部上場企業の研修講師を務めさせていただいています。 しかしながら講義中に企業理念とVision,Valueと経営戦略の関係を議論した際に、「皆さんは会社の価値観に賛同していますか?会社が好きですか?」と質問して、ほぼ全員が「賛同している。会社が好き!」と素直に答える企業は、他に例を知りません。

毎回20余名参加されるので、昨年と合わせて300名近くの方にお会いしましたが、試しに何度かこの手の質問をすると、同じ反応でした。特に、「御社のDNAを最もよく表現している言葉は?」と伺うと「チャレンジ精神!」、「正直であること!」などの言葉が返ってきます。

これは稀有な例でしょう。その会社で創っているものが、その精神に溢れていて顧客にアピールしていることは疑いのないことです。

業界のほぼ全ての競合が赤字決算を続けている中で利益を確保していることは、経営戦略が良いという要件に加えて、このValueの側面が大きいと思わずにはおれません。

最近ある競合に部品の品質不足からくる問題が起きた際にも、同じ部品メーカーから購買していたにもかかわらず、購買担当者が「スペック上は問題無いようだったが、自分で試してみて違和感を感じたので、コストアップになったが材質変更をさせた」ことで、事なきを得たそうです。

但し、議論を重ねて行くと「昔自分たちはこの会社の製品が好きで、憧れて入社した」のに、最近の新人は入社試験時は上手く別の解答をして入ってきて、配属後に直接受験動機を聞くと 「安定した大企業だから入った」と答えるそうです。製品や技術に対する想いが異なるその世代と、会話がうまくいかないことを口々に嘆いていました。

ある方は新人の時「取り敢えず部品表はあるから、この商品を一度ばらして、もう一度組み立てて、動かしてみろ」と先輩から言われて、2週間かけてそれだけやってみたそうです。自社の製品に対する尊敬と愛情をここで学んだとのこと。 しかしながら仕事量が増えて忙しくなり、このような手法は今では見られないそうです。 

ビジネス環境が変化して、入社する人の質や国籍も異なる人も入ってきて内部環境も変化した。 しかしながら人材育成のシステムは大きく変化していません。モノカルチャーでうまくいってきたことへの成功の罠です。

マネージャーは自部署がどのような課題を抱えていて、その優先順位は高いのか、低いのか? 何故そうしなければいけないのか? といった論理的なアプローチができないと、新世代の部下を納得させることも上司を説得することも難しい。

2日間のワークショップ中には徹底的に自社の抱える課題をグループごとに討議し、その課題を如何に具体的に特定するべきかに焦点を絞り何度もプレゼンテーションと質疑を繰り返しました。また最後には、他責ではなく自責の課題とすることを話し合いました。 人事の方からもフィードバックをいただきましたが、「自分の危機感のなさに気づいて唖然とした」「本気になれるから、自らお金を払ってでももっと学ぶ機会を試したい」といった声が上がっているそうです。

創業者の息遣いを感じて、時にどやしつけられて育った創業DNA世代と、その世代に直接育てられた世代が、また次の世代に受け継ぐべき血が薄くなっていこうとしています。強い血があったからこそ、形式知化して特別なことを仕組まずとも以心伝心で伝わってきたValueが危機に瀕している。

この企業のチャンレンジはこれから更に続くようです。

そのチャレンジのお手伝いができたことは、私にとって大きな喜びとなりました。