column コラム

共感力について

東洋経済新報社の雑誌「THINK」に寄稿する為にここ1週間ぐらい寝不足が続いた。

テーマは「共感力」である。そもそも何故THINKが共感力を取り上げるのかというと、ビジネス社会で論理偏重の弊害を感じ始めた人々から、プラスαの突破口が望まれている。そしてその処方箋の1つが「ロジックの力」に加えて「共感力」ではないか?ということだ。

7000字のリクエストだったが興に乗って書いたら13000字という倍近い分量になったので、内容を推敲、削る苦労をしていた。折角書いたことを闇に葬るのは残念なので、削除したパートをブログに書いてしまおう。

バブル景気の終演から90年代途中以降、日本企業の勝ちパターンは揺るぎだした。改めて語るまでもなく、かつて世界市場の潮流を牽引していたエレクトロニクス関連企業など今では見る影も無い状態で、自動車産業では海外競合の攻勢に晒されている。日本の貿易収支も赤字に転落した。スイスのビジネススクールであるIMDが毎年発表している世界競争力ランキングでは、1989年から1992年まで世界一だった日本の評価が2011年度版では26位となり、低迷を続けている。

現在日本企業では現状のグローバライゼーションに通用し世界で勝てる戦略や手法、スキルが真剣に模索されているがマーケティングの世界でも事情は同様である。図1のように従来から規模の経済を追って「②輸出」ステージにいた企業は、その後徐々に商品プロダクト・アウト志向を改め、マーケット・イン発想の商品開発を重視して来た。そうなると現地化や地域特性に対して対応せねばならなくなる。これが「③地域に焦点」ステージだ。これを推進していったらいつの間にか商品数が飛躍的に増加し、1商品あたりの売り上げが下がっただけでなく、その管理コストだけでも収支を圧迫し始めた。私の知るある加工食品メーカー企業でも年間300以上の新製品を発売し、ヒット製品の減少と利益率の低迷に悩んでいる。その他、多くのトイレタリーメーカー、家電関連メーカーも事情は全く同様である。

共感力について

一方でマーケティングは進化し、アップルの様なグローバル企業は一見プロダクトアウト型に見えなくもない商品とサービスの提供でかつて無い最高利益を謳歌し、「④国境無きグローバル事業」段階まで発展してきている。ネスレやユニリーバ、P&Gなどのグローバル企業は、BOP(Base of the Pyramid)市場においても先進国のブランドと同一な高級品で憧れを誘い、小分けしたパッケージで最小流通貨幣の単位に合わせた価格であるアフォーダブル(取得可能)という商品・価格戦略でボリュームを稼ぐ。高付加価値のブランドを地域レベルからグローバルレベル同時に管理するスキルを蓄積して、高収益を稼ぎ出している。ブランドだけでなく、人材管理、資金管理、調達・製造戦略も本社機能と世界地域本部、各国との役割分担が高度に管理されている。こうなると、「③地域に焦点」ステージの企業は「上手く、良いモノ」を作るだけの経営戦略の限界から抜け出さなければならない。もっとも、③にも達せずに②の日本仕様商品を単に世界中にばらまくように輸出している日本企業も少なく無い。グルーバル市場では商品の高性能化や多機能化だけではモノを買う理由たり得ない。そのような環境でも勝てる技が必要だ。だからこそデザインやブランドといった情緒価値を訴求して顧客に「共感」してもらう仕組みが注目されている。顧客は「こんなことができる製品だから」買うのではなく、「このデザインが好き!」「このブランドは私のもの!」、もっと言うとその「ブランドが語るストーリーに共感した」から買うのだ。

組織内・外コミュニケーションにおいても理論偏重のアプローチにそろそろ限界を感じ始めた人々が抱いているのは、「ロジックは重要だけど、人はロジックだけでは動かないよねえ」とか「ひたすら分析しても答えのアイディアが出てこないよ」という素朴な感覚だ。ではどうするのか?

私は外資系企業でマーケティングの実務や戦略系コンサルティングファームで経験をした後に大学やビジネススクール、企業研修の場でマーケティングやコミュニケーションを教えている。成功したマーケティング・キャンペーンやプレゼンテーションも経験したが幾多の苦い失敗体験から、人を動かすには聞き手にストーリーへの「共感」を生むことが肝要であると信じるようになった。そして共感を社内から社外への連鎖に結びつけるマーケティングアプローチが重要であると実感している。ここに、「共感連鎖」のアプローチについて述べたい。

というのが、13000字の時の「はじめに」のパート。ここは掲載される記事ではほぼ無くなった。イントロで1500字使ってしまったのだ。
本文にはナラティブ・アプローチとストーリーテリングの手法や、ペルソナ・マーケティングが共感訴求に有効であること、そして秀逸な共感コミュニケーションの手法などのマーケティングセオリーの話を書いた。また、加えて新潟市の都市政策研究所のアドバーザーとして私が実際に地元企業の皆さんとお付き合いする中で感じたことや、新潟の元気な企業のエピソードなどを書かせて頂いた。

内容に興味がある方は「THINK」を買って読んでくださいね